その手で 21.イクと駐輪場

 排水溝で枯れ葉が溶けて泥濘んでいる。気付いたら暑いから涼しいになり、朝夕だけはシャツの上に学ランを羽織るようになっていた。ブルーフレームの自転車の前でナイを待っていた。今日は昼休みにナイが現れなかったので一度も会っていない。約束をしているわけでもない。でも、俺たちは惹かれ合って一緒に居られるのだと信じていた。

 セーラー服姿の少女、が二人。おさげ姿のナイと……?

「イク、なんかモナが付いてきた」

 ナイの声はいくらか低くて、不機嫌であることを示していた。モナはがっちりとナイの腕に絡みついている。

「へー、コイツがモナか。背高いな。よろしく」

 モナは長い睫毛を何度も動かしては、俺の方に強い視線を向けたり外したりを繰り返していた。

「ミズ、ミズちゃんはモナが守るから、も、もう近づかないでください!」

 何か叫んだと思ったら。俺は吹き出していた。あまりにも笑うものだからナイが苦笑していた。

「イク、笑いすぎ」

「すまんすまん。とんでもない友達ができたんだな、と思って」

 友達じゃないし、と口を尖らせるナイの頭を撫でる。そんな俺たちを見てモナは憮然とする。

「モナ、私はイクと帰るから」

「で、でも、モナは」

「モナは私のこところ――」

 まあまあ、と俺は遮った。

「ナイにとっては不本意かもしれんがいいだろ。今日は三人で遊ぼうぜ」

 あからさまにナイが不機嫌になる。モナの方も攻撃的な淡い瞳がなんとか俺を睨み付けている。

 これは少し、頑張った方がいいのかもしれないな。